ヨシノボリの病気?



見たことも無い病気?寄生虫?



明らかにおかしいこぶ




●はじめに
僕がこの病気のようなものに最初に気付いたのは、2005年の2月に濃尾平野の某河川に採集に行った時でした。網に1匹のお腹が著しく肥大したトウヨシノボリが網に入りました。最初は卵を持ったメスが捕れたと思い、放っておきました。しかしよく考えると産卵期は5月から7月の初夏だという事に気付き、奇妙な気持ちで一杯になりながら採集していると、なんと今度は横っ腹と尻尾に大きな白いこぶができた個体を採集してしまったのです。その時はデジカメもまだ導入しておらず、日も暮れていたため普通のカメラでの撮影は困難だったこともあり写真は残っていません。その日は大きな心残りと共にそこを去ることとなってしまいました。

2005年11月に、そのあたりに行く機会があり、ついでに例のヨシノボリを捕った水系で採集をしているとその病気(?)のトウヨシノボリは今回もいました。しかもその周辺で採集したトウヨシノボリの5分の2ほどがその病気らしきものにかかっていたのです。
これは、と思い特に症状のひどい数個体を持ち帰る事にしました。
また驚いた事に、この病気はその河川に限らず、隣接する小河川のトウヨシノボリは殆どこのような症状にみまわれていました。

●主な症状
体の中に大きな白い異物(?)が胸鰭より下に1〜2箇所でき、体外からはうっすら白く見える程度だが稀に皮膚のすぐ下に出来て炎症を起こして痛々しい個体もいる。
泳ぎ難そうではあるが生活していく上でどのような影響を与えるのか、また死に至るものであるのかは不明。

●病魚を採集した水域
この病気(?)を確認した水環境は農業用水路と河川のみで、アブラボテ等が群泳するような水域もありましたが、水は綺麗とも汚いとも言えませんでした。 (岐阜県長良川水系のトウヨシノボリのみの確認でしたが、2006年10月には揖斐川水系のトウカイヨシノボリ、2006年11月に愛知県庄内川水系のカワヨシノボリにも症状の出た個体を確認しました。)


2005年10月 岐阜県 長良川水系産 トウヨシノボリ

2006年10月 岐阜県 揖斐川水系産 トウカイヨシノボリ(エタノール標本)

2006年11月 愛知県 庄内川水系産 カワヨシノボリ

●解剖
<2005年10月 岐阜県 長良川水系で採集されたトウヨシノボリの解剖>
持ってきた個体はプラケースに入れ、餓死させたのち解剖しました。
ろくな解剖道具も持っていない僕がやったことなのであてにしないで下さい。
とりあえず、まつ毛切りバサミで魚の肛門から鰓までの腹部を切り、肛門から背骨辺りまでの皮を切開します。すると突然体の中から白い液体が飛び出てきました。どうやらこれがヨシノボリの体を膨らませていた張本人でしょう。
なんだか普通の水よりネバネバとしていて膿のようですが、中にブチブチした卵の様な物が含まれていました。卵だったんでしょうか、いや、違います。卵が尻尾なんかに入っているはずがありませんからね。
2匹目を切開します。しかし今度は白い液は飛び出してきません。完全に切り開くと、巨大な臓器のようなものがありました。どうやらこの中に液体が詰っているようです。さっき飛び出したのはこの袋を傷つけてしまったからでしょう。
その物体、一見卵のうの様ですが、背中についていたりしてなにやらおかしいです。

写真をご覧下さい



結局解剖なんてしたものの、素人の自分には何が何やら分かりませんでした。

<2006年11月 愛知県 庄内川水系で採集されたカワヨシノボリの解剖>
網に入った100個体ほどのうち、症状があったのは1個体のみでした。
持ち帰った後エタノールで〆てから解剖しました。

赤い囲いのところが白く見え、体が全体的に膨らんでいます。

尾部のふくらみをピンセットで押してみると、シシャモの卵のような白いブツブツが・・・

腹部を切り開くと内臓と背骨の間に白いつぶがびっしりと付いて(内臓よりも多い)いてギョっとしました。
ここまで入っていてよく生きていられるなという状態です。

非常にグロテスクですが・・

この白いブツブツを顕微鏡で見ると、白いブツブツは非常に小さな微生物のコロニー?のようなものと判明。


この解剖よりも前に、岐阜県河川環境研究所に問い合わせ、この微生物の正体を調べていただいた結果、寄生虫である粘液胞子虫の一種であることがわかり写真まで送っていただいていました。そのため「ああ、これが粘液胞子虫か」と思いある意味感激しました。これ以上の研究結果は研究所のほうに帰属しますのでいえませんが、当時中学生だった自分の質問に快く答え、研究までしていただいた岐阜県河川環境研究所の研究員の方には心から感謝しています。ありがとうございました。

●終わりに(仮)
今までわかっていることはこれだけです。
寄生虫の発生原因も今のところ不明ですし、全ての原因が粘液胞子虫であるとは限りません。
まだまだわからないことだらけですので、自分でももっと調べたいと思っています。

●粘液胞子虫の新種記載(2008年2月22日追記)
ここで取り扱っている内容について、最近進展がありました。このページで取り扱った粘液胞子虫が新種記載されたのです。
2007年11月に岐阜県河川環境研究所の方からご報告があり、内容は「今回のヨシノボリに寄生していた粘液胞子虫が新種であったので、東京大学の横山博先生よりFisheries Scienceという日本水産学会の英語論文雑誌に新種記載した」というものでした。
学名は、最初に長良川水系で発見されたことなどにちなんでMyxobolus nagaraensisと名付けられました。

本種の概要は、今回新種記載をされた東京大学の横山博先生のHP(D-PAF)に掲載されているのでご覧ください
http://fishparasite.fs.a.u-tokyo.ac.jp/index.html D-PAF TOPページ
http://fishparasite.fs.a.u-tokyo.ac.jp/Mnagaraensis/Mnagaraensis.html Myxobolus nagaraensis掲載ページ
論文によると、Myxobolus nagaraensisは、濃尾平野に住むヨシノボリ属の中ではゴクラクハゼを除くほぼ全ての種に寄生が確認されています。
今回の件は、自分のこんな素朴な疑問から最終的に新種記載に至ったというものだったので、正直驚いています。世の中まだまだ知られていないことが沢山あるものだなぁということを実感した出来事でもありました。
岐阜県河川環境研究所さま、東京大学の横山博先生、本当にありがとうございました。




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